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『ラストレター』

 過去は過去だから、思い出は思い出だから、そこで止まったままだから、今とは切り離されているから、美化だってされているはずだから、いつだって心地良く、弱った心をあたたかく迎え入れてくれる。今がどんなに惨めでも、満たされていなくても、可能性や選択肢に満ち溢れていたあの頃に浸れば、救われる瞬間だってあると思う。時にそれが枷や呪縛になってしまうこともあり得るが、程良い距離感を保てている内は問題ない。

 でも、その時間を進めてしまったのなら、自ずと形は変わっていく。過去が今に追いついてしまえば、知りたくなかった事実を目の当たりにすれば、失われてしまう輝きだってきっとある。ただ、それだけが全てじゃない。向き合わなければ、歩みを進めなければ知ることのできなかった真実が、今を生きていくための糧に成り得ることだってあるのだと思う。

 ボタンの掛け違えから始まった手紙のやり取りが、それぞれの心に変化をもたらし、過去や今と向き合っていくためのキッカケを、未来を見据えて生きていくための道標を示していく。過去にあった可能性や選択肢に浸るのではなく、過去から現在に至るまでの一つ一つを噛み締め、肯定することができたのなら、今の自分を許すことが、認めることができるのかもしれない。過去に浸る頻度より、未来を見据える頻度の方が多くなっていくのかもしれない。

 ぶっちゃけ「母の学生時代とその娘を同じ人が演じるのは無理があるでしょ」と、はじめの内は思っていた。けれど、観ていく内にそれしかあり得ないと、この形だからこそ成立しているのだと納得した。神木くんも福山さんも、森七菜ちゃんと松さんも同一人物にしか見えず、俳優陣の凄さに、その凄さや魅力を引き出した監督のセンスに、それらを形にすべく携わった全てのスタッフ達の技術に恐れ入った。前から分かっていたことだけど、今改めて、岩井俊二作品の素晴らしさを再認識できた。

 また、メールやLINEが当たり前の世の中だから、スマホやPC画面の中だけで完結してしまうことが圧倒的に多いから、あえて手紙を書くことの価値を、手紙でしか届かない想いがあることを、本作を通して思い出せた。綺麗な字で書かなくちゃとか、切手を貼ったり住所を書く時間とか、届くまでのタイムラグとか、返事が返ってくるまでのインターバルとか、アナログに感じられることにこそ想いは宿る。とても当たり前のことだけど、そんな当たり前のことを強く自覚させてくれるこの作品の在り方は稀有だ。

 観て良かったと心から思えた作品です。

青春★★★★
恋    ★★★★
エロ★
サスペンス★★★
ファンタジー★★★
総合評価:A